教習一人旅

 オレが自動車教習所に通ったのは、大学1年のときだった。そのときの話をひとつ。

 もはや10年以上も昔の話なので、現在の教習所のシステムと違うかもしれないが、オレの時代には第3段階のときに「無線教習」なるものがあった。

 知らない人のために説明すると、「無線教習」とは教習所コース内をある程度走れるようになった生徒を対象として行われる授業で、普段は教官が助手席に乗って指示するのだが、このときは生徒一人に運転をさせ、無線でコースを指示し、遠隔操作するといった授業だった。それを管理塔の上から教官が動きをチェックするのである。つまり「そろそろ一人きりで運転してみろや!」という授業なのだ。

 そして無線教習の当日。オレは当時ハマっていた大瀧詠一の『ロングバケイション』をディスクマン(古!)で聴きながら、いつものようにのほほんと登校した。・・・まさかこの数分後に大事件が待っているとも知らずに・・・

 今回の教習を受けるのは、オレを含めて3人。名前がわからないので、適当に内村くん(男)と南原さん(女)としておこう。

教官「はいっ、今日は無線教習です。皆さん、コースは覚えてきましたか?

内村・南原「はいっ!!」

オレ「・・・・・・・(コース)・・・・・・・?」

コース・・・?コースって何だ?早くも暗雲がたちこめた予感が走るオレは、軽く内村くんを小突いて聞いた。

オレ「コースって何?」

内村「あれっ?コース表みませんでした?待合室とかに置いてありましたけど?」

なにいぃぃぃっっ!知らねーぞ、そんなこたあ!どうやら無線教習にはA・B・Cの3種類のコースがあって、そのどれかを実習するらしいのだ。

教官「今日はCコースです。よろしいですか?」

内村・南原「はいっ!!」

オレ「・・・・・・・(Cコース)・・・・・・・?」

 この時点でもはやオレにとってはAもBもCもないのだが、多少動揺したオレの頭のなかで

「A・B・C、ABCハ〜〜〜〜〜ン、E気持ち♪」

と、沖田浩之の『E気持ち』が流れていたのかどうかは、今となっては定かではない。

 ・・・まあいいや、要は先頭にさえならなきゃいいんじゃん、2号車か3号車に乗って、内村くんか南原さんの後をぴったりトレースすればOKでしょ、と思っていたら

教官「じゃあ1号車は・・・アキラくんね。で2号車が内村くん、3号車が南原さん」

おいおい!そりゃないぜ教官さんよう!もくろみが速攻で外れたオレは、さらに動揺した。・・・いやいや、待て待て。これは無線教習だ。「次は右に曲がって」とか「車庫入れしてください」とか教官が無線で指示をだしてくれるからこそ無線教習なんだ。要は無線の指示通り運転すりゃいいんだろ?まだ大丈夫じゃねえか、と気をとりなおした。

 車に乗り込んで3分。発進の指示がなかなかでない。ずいぶん待たせるなあと思っていたら、2号車の内村くんがオレの車の窓を叩いている。

内村「さっきから発進していいっていってますよ」

オレ「ウソ!?オレの車、なんにも聞こえねーよ?」

 またもや動揺したオレは、先頭ということもあって、急かされるように発進をしてしまった。ここでオレは

コースしらねー

無線も通じねー

しかも先頭

という三重苦を背中に背負ってしまったのである!

 発車しつつも、すでにパニックに陥ってしまったオレの頭ン中では「エマージェンシー・コール」がけたたましく鳴り響き、事態をどう収拾するかの緊急会議が開かれていた。しかし、最初の交差点はもう目の前である。「オレ流緊急パニック対策委員会」の下した結論は

開き直れ

だった。オレはふっきれた。部活の新チームのキャプテンよろしく

「よーし、今日からオレについて来い!」

と、オレはハンドルを右にきった。振り返ると内村・南原の二人は左に曲がっていた。

 部員の信任を得られなかった新キャプテンは、ここから45分のロンリーバトルを強いられることになる。とにかく自由気ままに走ってやった。

「次はクランクとS字カーブ」

「次は坂道発進だ」

「縦列駐車いってみよー」(いかりや長介?)

「おっと、車庫入れも忘れずに」

ってなカンジで、教習所内を縦横無尽。ただ、今まで習ったことは一通りこなしておいた。

 孤独な45分が終わり、3人は車からおりた。教官が向こうからやってくる。オレは言われる前に言ってやった。

オレ「なんかオレの車、無線が通じてなかったんですけど・・・」

教官「え?だったら一度車から降りて、知らせてくれればよかったのに」

そんなこといったって、あんたどこにいるかわかんねーじゃん!

教官「でも上から見ていたら、ちゃんと走ってたからいいですよ」(超いいかげん!

 ・・・あのなあ、上から見てたんなら、少しはオレの異変に気づいてくれよ!しょっぱなから右に曲がってたじゃん、オレ!

 無線が通じないでなにが無線教習だよ、まったく。でも一通りやっておいたおかげで、ハンコはもらえたんだけどね。

(2004年1月25日)

 

 

 

 

次の話にすすむ

波瀾万丈のトップにもどる

大学トップにもどる

トップにもどる