歩道橋の危険な遊戯

 その日は大下くん(仮名:男性)といっしょに下校していました。ヒマつぶしとして手にしていたソフトボールをパスしあいながら家路に向かうその姿は、どこにでもいる帰宅途中の小学生そのものだったのです。

 歩いているうちに2人は歩道橋にさしかかりました。普通に考えればここでボールをパスしあうことは中止するわけですが、小学生というのはスリルを求めるものなんですねえ。もしボールが落下すれば、下を通る車に多大な迷惑、ややもすると事故を誘発するかもしれないというリスクがある極限空間でのパスワークという、危険な遊戯に手を染めてしまったのです。

 幅1.5メートルほどでの危険な遊戯は大きな緊張感を伴い、2人のアドレナリンは大量分泌です。しかし2人は見事なパスワークで、通路の3分の2ほどをなんなくクリアしました。そこでオレは気持ちが大きくなったのか、大下くんに対して余裕を見せる行動をとりました。

 歩道橋って、欄干の部分に横断幕が張ってあること多いじゃないですか。「飲むなら乗るな」みたいな。その横断幕と欄干の間が隙間なくピッタリとしていることに気づいたオレは、

「どうだ、こんなことだってできるぜ」

と、ボールを欄干と横断幕の隙間にあてがい、手を放すという行動をとったのです。ところがその瞬間、ボールは横断幕と欄干の間をするすると下がっていき、予想外の動きに青くなったオレをあざ笑うかのように下のバイパスに落下してしまったのです。

  

 視界からボールが消えた直後、眼下からはニブい“ゴン”という音が。ボールは下を通りかかったライトバンの荷台に見事にヒット。ドライバーは異変に気づき、路肩に車を停め、「こら〜〜っ!」と、歩道橋を鬼の形相で見上げました。やばいと感じたオレは大下くんに「ふせろ!ふせろ!」と指示し、歩道橋に腹ばいになって身を隠し、難を逃れました。ボールの紛失はちょっと痛かったですが、まあ怖いおっちゃんに怒られるよりはマシです。

 翌週のことです。この日は朝から生徒全員が校庭に集まる全校朝礼の日でした。しかしオレは朝からちょっと風邪気味だったので、教室に一人残って待機することにしました。みんなが外に出ている中、ひっそりとした教室で一人居座るというのもなかなか気分がいいものです。オレは空いた時間を当時ライフワークにしていた、国語辞書全頁を使用したパラパラマンガ作成に費やしていました(暗いっての)。外からは朝礼の声が遠巻きに聞こえます。その声が校長の訓示から生活指導の先生に代わったときに、パラパラマンガを作成していたオレの手は止まりました。

「あ〜、このあいだバイパスにかかる歩道橋から、ボールを投げた生徒がいるとの報告がありました。このようなことは大事故につながる恐れがあり、非常に危険な行為であります。心当たりある生徒には猛省を促したいと思います」

 ギャー、それってオレのことじゃ〜ん!と、顔が青ざめてしまいました。もし校庭にいたら、貧血の児童のように、その場でくらくらと崩れ落ちてしまったかもしれません。まずい、まさかドライバーが学校に告げ口するとは思わなかった・・・とあせりましたが、腹ばいになって隠れたのでおそらく誰が犯人かまではわかってないだろうと、気を取り直しました。

 しかしその後、担任から呼び出しをくらったオレは、職員室にて例のソフトボールを手渡されました。

「・・・アキラ。オレが何を言いたいか、わかるよな」

担任はオレにこういいました。これだけの物的証拠を突きつけられては、何を言いたいかもくそもありません。オレは観念し、事の顛末を話して謝ったあと、こってりと説教を受けたのでした。

 え?なんでボールだけで犯人が特定できたのかって?それはね、ボールに「5年3組アキラ」ってマジックで書いてあったからだよ(笑)。

(2006年7月9日)

 

 

 

 

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