スタンド・バイ・ミー

〜オープニング〜※音がでます

 遠い昔の思い出さ。

 そう、あれは最後の夏休みのことだったんだ。今でも鮮明に覚えてるよ、あの時のことは。オレら4人で川へ釣りに出かけたんだよね。それはいつもの夏休みと、なんら変わることのないオレたちの日常の行動だったんだ。

 マサは釣りの師匠だったね。あの日だって、マサが発見した新しいポイントでの釣りだった。そうそう、竿は新品のがまかつの高級品だったっけ。おろしたての竿で釣りまくってやるって意気込んでいたよね。

 スミスは両親が共稼ぎで、昼間はちょっとさびしかったのかなあ。よく自作の酒入りジュースを飲んでいたよね。この日も水筒の中に怪しい液体を入れて、ちびちび飲みながら釣りを楽しんでいたっけ。目の焦点があっていなかったのが印象的だったよ。

 そしてキッド。キミは飽きっぽい性格で、一瞬たりともじっとできない性分だったね。この日だって、30分たたないうちに、ザリガニ釣りに移行してたよね。お調子者でおもしろいヤツだったけど、調子に乗り過ぎるのがちょっと玉にキズだったかな。

 あの事件だって、結局キッドの調子のよさが招いた事件だったんだ。たしかあの時、キッドは川に落とした竿を、あの手この手をつかって見事に拾い上げたよね。そう、勝ち誇ったキミの笑顔は100万ドルのスマイルだったよ。それだけに酔っ払ったスミスが落とした竿も、調子づいて

「オレに任せろっ、スミス!」

って、しゃしゃりでて、果敢に拾い上げるのを買ってでたんだっけ。そして予想通り足をすべらせて、まっ逆さまに川の中にダイブしたんだ。

 その時のシーンがあまりにもおかしくて、マサとスミスは笑い転げてたよね。いくらなんでもキッドのピンチにそれはないんじゃないかなあと、オレは思ったよ。といいつつ、そういうオレも腹がよじれるくらい笑ってたんだけどさ。そんなときにキッド、キミは川の中でもがきながらこういったんだ。

「ゴボ・・・ゴボ・・オレ・・・泳げ・・・ゴボ・・ねーよー!」

 衝撃的な告白だったよ。予想外に深刻な状況だったんだね、キッド。そんなキミはなりふり構わぬ行動にでたんだ。オレの足にもがきながらしがみついてきたんだよね。

 キッド、オレはこの時学んだんだ。人間危険を感じると、思いもかけない言葉を発することを。それは今思えば人間の自己防御本能であり、危機回避能力のなせる業だったんだなあ。そう、オレはあの時キミにこういったんだ。

危ねえな、離せよ!!

 ああキッド、キミは今から考えると、なんて素直な心の持ち主だったんだろう。オレに心無い言葉を告げられても、キミは言われたとおりに「パッ」っと両手を離してしまい、またもがきだしたっけ。普通はそういわれても、死に物狂いでしがみつくものだけどなあ。

 オレたちはさすがにまずいと思い、キッド救出作戦を立てたんだ。とにかくつかまるものを渡そうと、マサご自慢のがまかつの竿が選ばれたっけ。

「これにつかまるんだ、キッド!!」

 まるで芥川龍之介の『くもの糸』を見ているようだったよ。もがきながら必死でそれをつかんだよね。急場はしのいだと思って、みんな少し安堵の表情になったんだ。でもキッド、この時オレは学んだんだよ。人生安心しても、気を抜くなってことをね。

「スポッ!!」

 乾いた空気の音がして、新品のがまかつの竿は途中から抜けてしまったんだっけ。そういえばあの竿は着脱式だったんだよなあ。そしてマサ、その後キミがとった、衝撃的なシーンも忘れられないよ。唯一の救出手段が失敗に終わり、暴れたキッドが握っていたがまかつをポイっと投げ捨てたんだよね。新品のがまかつは、川にプカプカと浮いていたっけ。みるみるうちに顔が青ざめたマサは、たしかにこういったんだ。

何するんだよっ!!新品の竿なんだぞ!!

 そう、キミは怒り心頭で竿の方を拾いにいったんだ。キミは溺れて死にそうなキッドより、迷わず高級がまかつを選んだんだよね。あのときばかりは我が目を疑ったよ(笑)。

 スミスはもがくキッドに泳ぎのアドバイスを必死で送っていたっけ。でも付け焼刃の指導なんてたいした効果もなくて、どんどんキッドは岸から離れていったんだ。そこでオレは思ったんだ。実はパニックに陥ってるだけで、本当は足がつく深さというオチじゃないかってね。マンガで読んだことがあったんだ。でもこの時オレは学んだんだ。マンガはあくまでマンガであって、現実じゃないってことをね。

「そうだ、足が届くかもしれないぞ!ちょっと足が底につくか試してみろ!!」

 ああ、今思えば本当に素直なヤツだったな、キッド。キミはオレに言われた通りに泳ぐのを「ピタッ」っと止めて、一瞬にして水没しちゃったっけ。とても足が届く深さじゃなかったんだね。でも普通はそんな危険行動にはでないものなんだけどなあ。

「深いよ!深いよ!!」

 なんとか根性で再び浮上したキッド。そりゃ深かったろうなあ。頭まで埋まったんだからさ。許してくれ、キッド。マサは高級がまかつを拾うので必死だし、スミスは酔っ払ってるし、もうオレにも打つ手はなかったんだよ。キッド、キミのことは忘れないよ。飽きっぽくてお調子者で、妙に素直な男がいたってこと。

 そんな時さ。夕日の向こうから救世主があらわれたのは。

「ほら、これにつかまれ」

 差し出された玉アミの柄につかまり、キッドはなんとか陸に這い上がることができたんだ。オレたちの有様を一部始終みていたおじさんが、見かねて救いの手を出してくれたんだよね。それまで泣きわめいていたのに、陸に上がったとたんにキッドはヘラヘラ笑っていたんだ。ちょっとその表情は気味悪かったよ。

 そしてオレたちはキッドの服を乾かすために、夏の夕暮れに季節はずれの焚き火をしたんだ。

 遠い昔の思い出さ。

〜エンディング〜※音がでます

(2004年12月12日)

 

 

 

 

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