自慢する人

 オレが入社した当時、穴井さん(仮名:男)という先輩営業マンがいた。入社当初はよくわからなかったが、どうも同僚の人からはあまりいい印象を得られていなかったようだ。

 パッと見の印象は、なかなかさわやかなスポーツマンといった感じだった。実際テニスをこよなく愛し、外見は長嶋一茂似という、そこそこもてるんじゃないの?という印象であった。

 だが、付き合っていくうちに、なぜ彼が同僚に受け入れられないのかが、だんだんとわかってきた。彼は極度の自慢しいだったのである。それでいてイジケやすかったのだ。

 とくに営業部の女子軍団とは折り合いが悪く、渡辺さん(仮名:女性)とは天敵であった。彼女とのバトルを中心に、彼の事件をいくつか紹介していきたいと思う。

@スポーツ心臓事件

 会社では年に1回の健康診断があるが、その検診の結果、穴井さんはやや不整脈の気がある、という結果が出た。その理由として、常日頃からスポーツをしている人は常人よりも心臓に負担をかけているため、「スポーツ心臓」という症候群にかかりやすいというのである。 

 これらの症状はプロスポーツ選手に多くみられ、逆にいえば、スポーツ選手並みに身体を鍛えているという、ステイタスにもなりうるのである。

 穴井さんはどうやらこの「スポーツ心臓」の評価に満足したらしく、早速同僚に触れ回っていた。

穴井「オレさあ『スポーツ心臓』なんだって。参るよなあ」(あまり参ったようには見えない)
オレ「なんですか?『スポーツ心臓』って?」
穴井「プロ選手がよくなるらしいんだけどさ、ようはスポーツのしすぎで心臓に負担がかかるんだってさ」(得意満面)
渡辺「でもポックリ早死にしそうですよね」(えらい冷たい口調で)
穴井「・・・・・・・・・!お前縁起でもないこというなよ!」(激怒)
オレ「(・・・・・・・・・渡辺・・・・・・・お前ハッキリ言い過ぎ)」

 穴井さんの殺すリストに彼女の名が入ったのが、このときだった。

Aテニスメダル事件

 テニスに情熱を費やす穴井さんは、テニスサークルに所属し、休日を使っては試合にでていた。ある大会で穴井さんは優勝したらしく、そのときのメダルを「みんな見てくれ!」といわんばかりに、会社の机に置いていた。

 いくら自慢しいの穴井さんとはいえ、おおっぴらに「どーだ!」とはいえず、机上のメダルでさりげなく自己主張をし、「あれ?このメダルどうしたんですか?」と食いついてきた獲物に自慢話をしかけるという作戦だったらしい。しかしこの作戦はあからさま過ぎて、みんなが無視していたので、穴井さんはだんだん業を煮やしてきた。そこに天敵の渡辺さんが食いついたのである。

渡辺「あれ?穴井さん。このメダルって・・・」
穴井「(待ってましたとばかりに)ああ、これね、この間の大会でさ・・・」(自慢モードオン!
渡辺「(話をふさぐように)こんなとこに置いてて邪魔じゃないんですか?」
穴井「・・・・・・・・!!」

 この日、穴井さんの殺すリストに登録されていた彼女の名前には、二重丸が追加された。

Bソフトボール事件

 会社のレクリエーションで、ソフトボール大会をやることになった。各部署でチームを作っての対抗戦だ。そのときの話。

上司「穴井はソフトボールどうなん?うまいの?」
穴井「ボク球技はゴルフ以外ならなんでもうまいです」

と自信たっぷりに言い切ったのが悪かったのか、「ほう〜そこまで言い切るならみせてもらおうじゃないか」と、同じ営業チーム内の怒りに火がついてしまった。穴井さんが少しでもミスをしたら、突込みをいれるという魂胆だ。

 しかし当日の穴井さんのプレーは打てばヒット、守ればファインプレーと、言葉どおりの活躍であった。このときばかりは穴井さんの完勝であった。

Cサービス残業事件

 ふてくされ癖のある穴井さんが、夜遅くまで残業をしていた。それをみた当時の営業部長が、がんばっている穴井さんに一言声をかけた。

部長「穴井くん、がんばってるな」(励ましの意味をこめて)
穴井「ええ、ちょっと書類が多くて。仕方ないですよ」
部長「身体を壊さない程度にな」(部下を気遣うやさしい言葉)
穴井「ええ、サービス残業がんばりま〜す」

 この日、穴井さんは残業時間よりも長く、部長にこっぴどく怒られたらしい。

D伝説の社長同行営業事件

 これは聞いた話であり、元ネタが膨らんでいるのだと思うが、紹介しよう。

 穴井さんが入社した当初、中途採用だった穴井さんに営業のイロハを教えようと、社長が同行営業を買ってでたらしい。二人で車に乗り、ある程度外回りをこなして、ひと段落ついたときのこと。

社長「穴井くん。こういう少し空いた時間では、営業マンたるものどういう行動をとるべきかわかるかね」
穴井「そうですね。寝ま〜す

と、おもむろに座席のリクライニングを倒し、腕を頭の後ろに回して寝だしたのである。しかしこの事件の真偽のほどは定かではない。ホントだったら、マジで伝説だけど。

 このように、穴井さんはその特異なキャラでさまざまな事件を提供してくれた。オレは当時新人で、穴井さんのフォローに回ることが多かったせいか「アキラは穴井派だからな」と、知らぬ間に穴井派閥に入らされたりもした。その穴井派のオレが聞いた、一番の穴井節が以下の話である。

E輝いてるっス事件

 たまたま帰りが穴井さんと一緒になったオレは、メシを食って帰ることにした。ここで最近の穴井さんの身の上話を聞かされることになった。

穴井「・・・というわけでさ、そのテニスサークルの女の子がさ、オレに言ってくるわけ」
オレ「・・・何をですか?」
穴井「『穴井さんて魅力的です』ってさ。参るよなあ」(参ってない
オレ「ほう。で、穴井さんは何て答えたんですか?」
穴井「『オレなんかのどこがいいの?キミが思ってるような、できたオトコじゃないよ』って」

たしかに会社の評判で判断する限り、とてもできたオトコとはいえまい。

オレ「はあ。それで彼女はなんと?」
穴井「『そんなことないです。ステキです』って」
オレ「へ〜、本気ですね、その娘」(だんだんどうでもよくなってきた)
穴井「なんか彼女から見えるオレって『輝いてる』みたいだからさ」
オレ「・・・・・・・・・・・・す、すごいじゃないですか」(あまりの発言に言葉を失う)

 このときの穴井さんのニヤけっぷりは、確かに別の意味で輝いていた。後日、他の営業の先輩にこの話が漏れてしまい、瞬く間に

穴井さん、輝いてるっス!

というフレーズが陰で流行してしまったのは、いた仕方のないことか。

 以上のように、様々な事件を提供してくれた穴井さんも会社を辞めてしまった。しかし「穴井が辞めてからおもしろい事件が減った」という声も聞かれ、いかに穴井さんが違った意味で期待されていたかが伺えるというものである。今なにしてんだろ。

(2004年2月17日)

 

 

 

 

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