山内くんのアイデア

 夏休みの宿題で必ず出題されたものに、技術の「日用品を利用したアイデア用品」というものがあった。これがけっこうクセモノの宿題で、3年間オレの頭を悩ませたものの一つである。

 まず「日用品」の定義がいまいちハッキリしない。日用品というからにはやはり箒だとかチリトリだとか、傘だとかタオルだと思うのだが、友達の作品をみてみると、ドイトあたりの日用品店で売っている「○○キット」とかを購入してイスを作ったりしている。オレはそういった風潮がどうしても納得がいかなかった。

「それは既製品を組み立てているだけであって、アイデア用品ではない!」

というのが理由である。というわけでオレは傘にムギ球(豆電球よりも小さいやつね)を取り付けて『夜でも明るい安全傘』(図参照)を作るという、なんとも外見は派手でありながらもその製作は地味なことこの上ないという作品を作り上げて、二学期を迎えた。ただそれは実は『こち亀』のネタをおくびにもださずパクったものだったと、ここで白状しておこう(笑)。


『こち亀』からパクった作品

 さて二学期初めての技術の時間がきて、各々の作品が先生によって審査されることになった。技術の担当は鈴木先生(仮名:男性)である。能面のように表情を崩さない、まさに鉄面皮という言葉が似合う先生で、生徒のお仕置きにゴツンとニブい鉄拳をくらわせることで、生徒の間では『ゴッツ』と呼ばれていた。ちなみにそのゴッツは、女子プロレスラーのライオネス飛鳥の恩師でもある。

 イスに深く腰をかけ、足をくんで生徒の作品を受け取り、静かにじっくりとチェックをする。その姿はさながら家来からの進呈物を目利きする王様のようでもあった。そして緊張感漂う教室では、その家来ども(生徒)が王様(ゴッツ)からの評価を固唾をのんで見守るのだ。

ゴッツ「・・・・・・これは・・・何に使うんだ?」

ボソリといいながらも、そのスゴ味のある低音を伴って発せられる言葉には迫力がある。

生徒「あの・・・こ、こうしてリュックにして荷物を・・・」

ゴッツの迫力にのまれた生徒が、しどろもどろに答える。

ゴッツ「・・・・これがリュックか・・・ゴミ袋かと思ったぞ。まあいい、評価は3だな」

 ゴミ袋と酷評された生徒の作品は、なんとか5段階評価の3に収まった。このようなピリピリとした空気の中、全ての作品の審査がすすむのだ。オレの『夜でも明るい安全傘』は、その情けないくらい貧乏臭い作品にもかかわらず、4の評価をうけた。やはり評価が高いのは、しっかりとした作りの作品であった。しかしそれらは明らかに市販されているキットであり、「なぜアイデア用品の宿題なのにアイデアで評価せずに、見てくれのいい作品の方を評価するんだ」と、自分はアイデアをマンガからパクっているくせに、腑に落ちなかった。

 また、こういった宿題では、必ずといっていいほどやっつけで製作した作品を持ってくる奴がいる。おそらく夏休み終了ギリギリまでほっぽっておいて、一夜漬けで作成したのであろう。井塚くん(仮名:男性)が持ってきたのは、複数のストローで作った『馬』だった。その明らかにテキトーにストローを切って、セロテープでくっつけただけの作品『馬』をチェックしたのち、ゴッツはボソリといった。

ゴッツ「・・・・これは・・・?何だ?」

井塚「あの・・馬です」

ゴッツ「馬・・・・で、この馬で何をするんだ?」(厳しい尋問!)

井塚「え〜と、あ、遊ぶんです。パカパカって」(チャレンジャー!!)

ゴッツ「・・・じゃあ今遊んでみろ」

井塚「え?は、はい。パカパカ」

ゴッツ「・・・楽しいか?」

井塚「い、いえ・・・あまり・・・」

ゴッツ「そんなものアイデア用品じゃないだろ。お前は評価1だ

 恐ろしい!まるで悪党に制裁を加える直前のケンシロウのようだ。二学期のしょっぱなから、最低の評価を与えられた井塚くんにとって、ゴッツの言葉はまさに「お前はすでに死んでいる」と聞こえたことだろう。しかし上には上がいるもので、井塚くんの『馬』を超える作品が登場したのである。

 その作品を作ったのは山内くん(仮名:男性)であった。彼はおもむろに鍋をとりだした。どこの家庭にもあるような、銀色の鍋だ。それが一体どういった作品なのか、始めはわからなかった。よく見ると、両側の取っ手から、ゴムひもが一本結ばれているではないか(再現写真参照)。

こんなカンジです。

材料がそろえば、1分かからずにできそうなシロモノだ。つまり手抜き具合が明らかに見てとれる作品なのである。オレたちは、100%の確率でゴッツの怒りを買うような作品を取り出した山内くんが、いったいどの様なゴッツ攻略を試みるのかに注目した。静かに時は流れ出し、ゴッツの重苦しい口が開く。

ゴッツ「・・・(じっくりと鍋を眺めまわして)・・・これは何だ?」

山内「あ、あの・・・ヘルメットです」

 この瞬間、教室は爆笑の渦に巻き込まれた。なんと山内くんは、ゴムひもをつけた鍋を、『ヘルメット』と言い放ったのだ!!

ゴッツ「ヘルメット??これがヘルメットか・・・ちょっとかぶってみろ」

山内「は、はい」

といって山内くんは鍋を頭にかぶり、ゴムひもをアゴにかけた。なんとも情けない姿の山内くんを尻目に、ゴッツは持っていたボールペンで山内くんの頭をコツコツと叩きながらいった。

ゴッツ「(コツコツコツ・・・)なかなか頑丈そうだな」

山内「は、はい。痛くありません」

 さらに教室には、輪をかけた爆笑が起こった。これにはオレも大笑いさせてもらった。しかし心の中で、山内くんに嫉妬していたのである。彼の作品はいかにも間に合わせのふざけた物であるのは確かだが、鍋とゴムひもという日用品を使い、それをヘルメットにするというアイデアは見事なものだ。そして恐れずにそれを先生の前に差し出す度胸、防災の日を意識した?タイミング、しかも場内大うけである。そしてオレは見逃さなかった。鉄面皮の無表情がウリのゴッツが、山内くんの作品をみて苦笑いしたのを。これは意外にいい評価が得られるのではないか?!笑い、嫉妬しながらも、オレは山内くんの大逆転を予測した。

ゴッツ「・・・・度胸は買うが、手え抜きすぎだ。お前も評価1だ

 残念!健闘むなしく、哀れ山内くんの夏は終わった・・・。しかしオレの心の中では、アイデア・インパクト・お笑いの全ての項目において満点を示しており、『アイデア用品キング』の称号を、そっと山内くんに与えたのでした。

(2004年8月28日)

【特別付録】

せっかくなので、作った『ヘルメット』をかぶってみました。(画像の上にポインタをおくと、キャプションがでます)

まず正面から。取っ手が犬の耳みたいでちょっとかわいい。 サイドから。実はこの鍋、新品です(笑)。 一人防災訓練をしてみました。うわ〜地震だあ!

アホ丸出しです(笑)。

 

 

 

 

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