夏期講習でリッチな食事を

 オレの中学時代は、まさに偏差値絶対主義の真っ盛りであった。「いかに高い偏差値をとるか?」ということが、高校受験において重要な判断基準になるのである。

 ときは中3の夏。オレもご多分に漏れず、受験生にとってこの「大切な夏」をシャカリキになって勉強することですごしていた。当然のように塾の夏期講習に通っていた。

 オレが通っていた塾は、埼玉県ではそれなりに有名だった『あづま進学』。そのなんとかコースという、10日間くらいの講習だったと記憶している。

 まさに勉強漬けの毎日であった。朝は9時から始まり、昼食をとって、午後も長いときは7時くらいまで勉強。さらに通常の授業(週3日くらい)がある日は、それも受けるから9時くらいまで、つまり半日は塾で勉強していた。

 こんな拷問のような生活では、なにか楽しみがないとやっていけないな、と思い、友達と語らってささやかな楽しみを設定することにした。

講習最終日に、大宮のデパートのレストランでゴージャスな食事をしよう

 これである。つまりこの辛い講習を乗り越えた自分へのご褒美に、打ち上げをやろうではないか、ということである。

 問題は予算だが、これについてはオレに考えがあった。なんのことはない、昼飯代を削るのである。当時親からは昼飯代として、毎日500円が支給されていたので、昼飯を200円までに抑えれば差額が300円。300円X9日間=2700円!最終日までにこんなに貯まるのだ。これだけあれば、かなりの食事ができるに違いない。

 一緒に講習に通っていた岩田くん(仮名)と小谷くん(仮名)も、オレの提案に賛成してくれた。ここに「がんばってリッチな食事をしようね会」が結成されたのである。

 オレらが選んだ昼飯は・・・駅そばである。当時大宮駅のかけそばは、一杯170円くらいだった。これならば更なる貯蓄が期待できる。

 ・・・しかし9日間連続でかけそばは辛かった。まず量が少ない。この育ち盛りのオレたちにゃ、物足りないもいいところである。そして飽きる。かけそばなんて具がないから、味も単調でそっけない。講習も中日を過ぎた頃から、他の二人は耐え切れずにきつねそばや月見そばと、少々リッチなメニューに手をだしはじめた。しかしオレだけは意地をはって、かけそばだけで押し通した。今から考えると別に2〜30円アップしたって体勢に影響はないから、オレもそうすればよかったと思う。

 地獄のような思いをして、とうとう最終日が訪れた。3人ともホクホク顔で、デパートのレストランへむかった。当然塾帰りなので、どこからどうみても中学生度120%だ。

 オレら3人は強烈に場違いな雰囲気を醸し出しつつ、店員の後をついて席に座った。ウェイターがメニューをさしだし、オーダーをとる。

「ご注文のほうは?」
「えーっと、サーロインステーキのコースを3つ

このときのウェイターの顔はいまだに覚えている。あきらかに「エ!?」と怪訝そうな表情をし、目をしばたいたのである。

「サーロインの・・・コース・・・でよろしいのですか?」
はい(即答)」

 このウェイターとしては、ただでさえ場違いなガキがあらわれた上に、店でも高級な部類に入る「サーロインステーキのコース」を迷いもなく注文されたので、「このガキども、ちゃんと金もってんのかよ?」と少々面食らったのであろう。

 次々に運ばれる料理。それらに舌鼓をうちながら、純度120%の中学生の、リッチな晩餐は続くのであった。

(2003年11月28日)

 

 

 

 

次の話にすすむ

波瀾万丈のトップにもどる

中学トップにもどる

トップにもどる