ドラクエVと新記録

 

 やっぱりさ、人間何か大きなリスクがかかっているときにこそ、その秘めたる力を発揮しうるってもんで。

 オレは高校時代、家から最寄駅まで自転車で行ってたんですね。そして電車にのって通学していたわけです。やはり当時は体力が有り余ってますからね。自宅から駅までのタイムの短縮に命を賭けてみたい年頃なわけですよ(笑)。

 でもって、当時のベストタイムが5分15秒。信号等、運に左右される面もありますが、これが限界。これ以上はありえないと思っていました。そう、あの時がくるまでは。

 1988年、バブル経済に浮かれる世の中において、その時代を象徴するかのようなゲームが発売されます。そう、平日なのになぜか発売日には小中学生が行列に並び、せっかく手に入れた小学生がカツアゲされ、『ドラえもん』の世界の中だけだと思われていたジャイアニズム(お前の物もオレの物主義)が現実世界において起こり得ることを満天下に証明してみせた伝説のゲーム『ドラゴンクエストV』の発売です。

 もうね、世間の注目を浴びまくっていたお化けソフトですよ。かくいうこのオレも、当然のことながら狙っていました。例えテストの成績が悪くなるとわかっていても。例え親に「ピコピコばっかりやってるんじゃない!」と小言を言われ、ファミコンを隠されたとしても。男にはやらなきゃいけないときがあるってもんでさあ(笑)。

 たださすがに発売日には買えないだろうと思っていたので、少々ほとぼりが冷めてから購入しようと思っていたんですね。1ヶ月もすれば並ばなくても手に入るだろうと思っていたんですよ。この辺は落ち着いたもんです。ピーク時を少しズラす作戦にでたわけですね。ええ、オフピーク通勤作戦ですよ(なんだそれ)。

 しかし出会いは突然に。いつも帰り道に道草しているディスカウント店のおもちゃ売り場を何気なくのぞくと…なんと発売後1週間しか経っていないのに、ショーケースにはどーんと鎮座まします『ドラクエV』様。しかも1割引! 巷ではまだまだ在庫不足が続く『ドラクエV』が目の前にあるなんて、これはまさに天の配剤。このチャンスを逃す手はないでしょう。衝撃が脳髄を突くとともに、反射的に財布に手が伸びる…げっ足りない! こんなときに限って、ちきしょう!!

 当時のオレは、銀行のキャッシュカードなんて持ってないですよ。というわけで、このチャンスをモノにする選択肢はただ一つ、家までお金を取りに行き、また戻ってくることのみ。その過程をわかりやすく表示すると、

店(ドラクエV)

電車

自転車

自宅(お金)
         

こんな感じです。ああ、もどかしい! こんな往復をしている間に、ドラクエVは人の手に渡っちまう! とにかく1秒でも早くこの場に戻ってこなくてはなりません。オレは電車に飛び乗り、イライラしながら地元の駅まで戻ります。駅に着いたとたんにチャリ置き場へ猛ダッシュ。チャリにまたがり、自宅へ向かおうとしたときに、ふと思ったんだよね。このシチュエーション…記録がでるかもって。

 こんな切羽詰った時にも、意外と余計なことを考えるもんですね、人間は。オレは腕時計をチェックし、自宅に向かってGO! ありえないくらいの超スピードでペダルをこぎます。運がいいことに信号につかまることはなく、ノンストップランニング。息はあがり、腿もパンパンに張っていましたが、ドラクエVが他人の手に渡ることは許しがたく、根性を入れてこぎまくりました。もう両手離し運転で、手を使って膝がしらを押してたもんね。そんなこんなて自宅に到着。腕時計をチェックすると、でた! 新記録4分51秒! ありえね〜〜〜っ! 今までどう頑張っても無理だった5分の壁を、いともあっさりと破り去ってるじゃありませんか!

 「『火事場のクソ力』ってこういうことかなあ」と妙な感心をする間もなく、引き出しからお金を取り出し、ゼエゼエいいながら再度自転車に乗って駅まで向かいます。疲労状態もピークにさしかかっていたにもかかわらず、復路も5分8秒という恐るべきタイムを弾き出しました。いやはや、人間なせばなるもんですね(笑)。

 結局ドラクエVは無事ゲットすることができ、オレはその冒険譚を充分堪能することができたのです。勇者ロト、旧アレフガルド、転職システム、王者の剣、消えやすい冒険の書、真ボス・ゾーマと、ドラクエVの思い出はあげるとキリがありませんが、実は4分51秒という新記録を弾き出したことが一番の思い出だったりもしますね(笑)。

(2007年4月28日)

 

 

 

 

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