真奈美ちゃん(仮名)

 

 何度も書きましたが、オレは高校時代を男子校で過ごしました。その3年間はやはり特異な環境といってよく、同世代の女性と接する機会が激減しました。まわりを見渡せば男・男・男、教師陣も男、事務員も男の男祭り状態です。唯一の女性教師は、思春期ボーイが相手をするにはあまりにも厳しすぎる超熟女(笑)。しかしこんな環境の中、楚々とした彼女はやってきたのでした。

今日から生物を担当することになりました若林真奈美(仮名)です。よろしくお願いします

“ウォオオオ〜ン”という歓声がクラス内で巻き起こりました。そこには男祭り開催中の学園内では決してありえない、20代の女性があいさつをしてたたずんでいたのです。興奮に沸き返るクラスを担任が沈め、真奈美ちゃんは漢臭がムンムンに充満した中で自己紹介を始めました。

昨年教育実習を終え、今年から臨時教員として赴任してきました。わかりやすい授業を心がけるよう頑張りますので、わからないことがあったら聞いてくださいね

なんと! 聞けば昨年大学を卒業したばかりの、ピチピチギャル(死語)ではないですか! これを聞いた面々はさらに色めき立ちました。そりゃそうです。若い女性とのコミュニケーションを半ばあきらめかけていた生徒たちにとって、20代前半の彼女は天がもたらした配剤でした。いや、猛獣の檻に投げ込まれたエサに近かったでしょうか(笑)。とにかくその日以来、真奈美ちゃんがいる場所には男塾には似つかない華やかな空気が流れたのです。

 しかし真奈美ちゃん、授業を進めることに四苦八苦します。これは彼女の経験の浅さも原因ではあったのですが、基本的には若い女性に興奮してはやしたてる生徒側に大きな問題がありました。つまり真奈美ちゃんは悪ガキどもになめられてしまったのです。まあありがちですよね。彼女の授業時間はどうしても“ヒューヒュー”的な空気になってしまい、興味本位の質問や私語が飛び交ってしまうわけです。軽い学級崩壊といってもいいでしょうか。

 そんな悪ガキどもを相手に真奈美ちゃんは奮闘します。

静かにしてくださいっ!!
いいかげんにしないと怒りますよっ!!

でも生徒は聞かない聞かない(笑)。ちょっと気の毒でしたね。新卒の女性を男子高に配属させる人事に、正直無理を感じた瞬間です。

 しかし時は過ぎ、毎度うるさいクラスにてこずりながらも真奈美ちゃんは授業を進めていきました。そんなある日のことです。真奈美ちゃんは「今度教職員の謝恩会の出し物で歌を歌うので、他の先生たちといっしょに練習している」と、授業中にポロっとこぼしてしまいました。それを敏感に察知した悪ガキどもは

「せんせ〜歌って〜!」
「どんな歌?聞きたい、聞きたい!」
「せ〜の、ま・な・みちゃ〜ん!!」

と、やんやの喝采です。はじめは「ダメダメ」とか「ヤダヤダ」と渋っていた真奈美ちゃんでしたが、歌わないとこの騒動は収まらないと観念したのか、「じゃあはじめのさわりだけだよ」ということで、軽く咳払いをして喉の調子を整えた後、やや緊張した面持ちで歌い始めました。

♪うぃがっちゅ〜いぇ〜いぇ〜いぇ
   ♪うぃがっちゅ〜いぇ〜いぇ〜いぇ
     ♪うぃがっちゅ〜いぇ〜いぇ〜いぇ〜いぇ〜いぇ〜・・・ハイ、おしまい!

(※歌詞は間違ってるかもしれませんが、こう聞こえました)

恥ずかしさに耐えてビートルズの1フレーズを披露した真奈美ちゃん。ここまでやったのだから、それなりの反応があってもいいはず…と思ったその瞬間でした。

「…なにそれ?」

盛り上げるだけ盛り上げておきながら、生徒側の予想外の裏切り行為。クラス内はシーンと静まり返り、辛辣な一言を浴びた真奈美ちゃんの表情は固まっていました。どれだけ注意しても静かにならなかったクラスが、自分の歌がすべることによって静けさをもたらすなんて、なんと皮肉なことだったでしょう。そんな重苦しい空気の中、バツが悪そうに真奈美ちゃんはチョークをとって授業を再開しました。

 そんな真奈美ちゃんに今だから言います。悪いのは全部オレたちです。あなたは何も悪くありませんでした。本当にすみませんでした(笑)。

(2006年4月30日)

 

 

 

 

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