ラブコメマンガの罪悪

 

 清楚で可憐でちょっとおとなしめ。でも暗いっちゅーわけではなくて、笑顔がかわいい。化粧っけはあまりなくて、すっぴんで十分美人とわかる顔立ち。所作がしとやかで、ちゃんと男をたてる。もちろん処女ではあるが、かといって性に興味がないわけではなくて、頬を赤らめながらも恋人に対しては一途に行動する。おまけにナイスバディだったら、なお結構。

 さて、これは一体なんだろう。実はオレの「高校時代の理想の彼女像」であったりするのだ(恥!)。

 しかし…このストライクゾーンの狭さときたら、どうしたことだろうか。『体育王国』のストラックアウトも真っ青な狭さ。最後の一球で7番を抜かなきゃならないくらい緊張したシーンが、オレの標準(スタンダード)。

 そして女性をバカにしたかのようなこの傲慢ぶり。読んでいたあなた、いや、呆れる気持ちはごもっとも。でもちょっと聞いてくださいな。オレは悪気があって上記のような、狂った妄想をしていたわけじゃないんだよ。多感な青春時代に根ざされた、大きな理由があるのだ。

 当時のオレは前述したとおり、「女の子と話せなくなっちゃった」男でした。男子校というそれはそれは「苦行」のような環境の中、「彼女ほしい〜、女の子とラブラブして〜(この表現…)」という欲求は日増しに高まっていた。しかし現実は女の子と付き合うどころか、会話すらできません。

 そんな中、オレの欲求を満たしてくれたのが、いわゆる「ラブコメマンガ」だったのだ。ラブコメマンガを読むことで、オレはその主人公になりきり(危険思想!)、女の子とコミュニケーションをとることの代償行為にしていたのである(すでにレッドカード!)。

 では、この危険行為のテキストとなった2つのマンガをあげてみよう。それは

きまぐれオレンジ☆ロード(まつもと泉)

めぞん一刻(高橋留美子)

である。知らない人のために、簡単なあらすじを記しておこう。

【きまぐれオレンジ☆ロード】

 オレ、春日恭介15歳! この間私立高陵学園に転校してきたんだ。散歩がてら公園にいったら、超カワイイ女の子に出会って、オレ、一目惚れ。なんとその娘はオレと同じクラスの「鮎川まどか」だったんだ。

 みんなは鮎川を不良だっていうんだけど、オレにはそうはみえないなあ。学校ではツンケンしている鮎川だけど、ホントはとてもやさしい子だと思うんだ。そんなミステリアスな鮎川にオレはもう夢中。

 でも鮎川を「お姉さん」と慕っている、ひかるちゃんから告白されちゃった。押しにまけて、なんとなく付き合っちゃったんだけど…ひかるちゃんと仲良くすると、なぜか鮎川の機嫌が悪いんだ。

 みんなには内緒だけど、オレは少しだけ超能力が使えるんだ。だからこの間、鮎川とひかるちゃんとのデートがダブルブッキングしたときも、なんとかテレポーテーションでその場をしのいだんだ。そのほかにも超能力を駆使して、いろいろなピンチを乗り切った。

 ミステリアスな美少女鮎川と、元気で天真爛漫なひかるちゃん。どっちも好きなんだけど、このオレの優柔不断な性格で、苦労がたえないよ。ああ、この三角関係、いったいどうなっちゃうんだろう…?

 

【めぞん一刻】

 アパート「一刻館」の住人、五代くんは貧乏浪人生。突然一刻館の管理人で現れた、音無響子さんに、五代くんは一目惚れ。しかし響子さんは、若くして夫と死別した、後家さんだった。

 はやくから響子さんに気持ちを告白した五代くんだが、おもしろがって邪魔をするその他の住人や、三鷹さんという金持ちのライバルや、なぜか五代くんに好意をもつ女性が次々と登場し、いつも響子さんを怒らせてしまう。

 お互い好きあっているのに、五代くんは優柔不断な性格、響子さんは前夫への想いが影響して、物語は二転三転。

 さて、五代くんと響子さんは、無事結ばれるのであろうか…?

…とまあ、こんなカンジである。主人公の男にとっては、事件がたえないものの、なかなかおいしい環境といえるだろう。作品としても『きまぐれ…』のほうは、ご都合設定といえども、コメディーとしてはなかなかおもしろいし、『めぞん一刻』は大人でも楽しめるラブストーリーになっている。

 だがここで問題なのは、これらの作品をどこまで現実の生活と線引きするかである。正直な話、これらを「マンガはマンガ、現実は現実」と捉えるか、「こんなことが現実に起きないかなあ」と、ある種希望をもって捉えるかで、大きな違いがある。

 前者は夢のないような考え方ではあるが、オレ的にはこのスタンスをとったほうが、人間としては安全かな、と思う。後者はその状況にもよるが、あまり深みに入ると、現実との境があいまいになり、ご都合主義の妄想癖が台頭し、現実のコミュニケーションへの弊害となる。当時のオレは、これに足を突っ込んでいた。

 自分を弁護するわけではないが、当時の環境を考えれば、これもいたし方ないかなあと思う。周りに女の子がいない環境、つまり同年代の女の子の生の声や、現実の情報が、まるで入ってこないのである。その隙間にこれらのラブコメが、ジグソーパズルのピースのごとくはまり込んでゆく。恥ずかしい話だが、好きな女性のタイプは「響子さん」とか、「鮎川まどか」というような時期がたしかにあった。このような「2次元からの女性観の構築」の結果、冒頭のような、頭の痛い妄想女性像が確立されてしまうのである。

 さらに困ったことが、行動の手本をマンガの主人公に習う、ということである。上記2つのマンガの主人公である「春日恭介」や「五代くん」は、確かに素朴で朴訥で、やさしく思いやりのある好青年であることは間違いない。しかしお人よしすぎるがための、両者の共通の性格である「優柔不断」が、クセモノなのだ。

 オレは自分で言うのもなんだが、恭介・五代に「似てる」と思っていた(性格面で)。こんなことを考える人は、多分これらのマンガの読者の中には、吐いて捨てるほどいたと思う。ここで両者のキーワードである「優柔不断」が問題になってくる。この両者は「優柔不断」で、女の子にちやほやされていた。ある意味おいしい場面に遭遇していたのである。ここでオレは大きな勘違いを犯したのだ。

優柔不断はモテる

 ありえねーっての! あんなグジグジした男なんか現実にいても、女の子がホレねーっての! 優柔不断な性格の下の、優しさや真面目さ、素直さを見てくれったって、そこに行き着く前に、女の子はどっか他へ行っちゃうっての! 思い出してごらんよ、恭介・五代に「似てる」って思った人、君たちはモテたかい? モテなかったでしょう!?(オレの独りよがりかもしれんので、情報求む)

 オレはこの「優柔不断」を実戦配備してしまったがために、「女の子と話せない病」に拍車がかかってしまった。ここからの脱却にも、かなり苦労した。それだけに今現在、ラブコメに心のスキマを埋められている(喪黒服造?)中学生・高校生がいたら、一言いっておきたい。

ラブコメを楽しむのはいいけど、決して現実に持ち込むな

 これは経験者からの助言である。現実の男女のコミュニケーションは、現実の接触でしか確立されません。

 ちなみにラブコメの呪縛から脱却したオレは、ストライクゾーンがワイドになりました。ストラックアウトでも、1〜9じゃなくて、1〜25くらいまでいっちゃいそうです。金剛くんもばかでかいです。…まあ広がり過ぎるのも、節操がなくて問題なんだけどね。

(2004年1月1日)

 

 

 

 

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