髪の毛を伸ばすといふこと

 

 オレはものごごろついた頃から、ずっと坊主頭だった。リトルリーグに入っていたから、小学校時代はずっと坊主だったし、中学は校則で坊主(いまだに!)と決まっていたから、髪の毛を伸ばした自分というものを、見たことがなかった。つまりずっとマルコメ人生を送ってきたわけである。

 しかし高校に入学し、とくに野球部にはいるわけではなかったので、「髪の毛の規制緩和」がオレの人生で施行された。当然思春期だし、いいかげん坊主もなーと思っていたので(当時はベリーショートなんてスカした表現はなかった)、とりあえず何も考えずに伸ばしてみることにした。

 夏を過ぎたあたりから、髪の毛は順調に、ある程度の長さまで生えそろってきた。ここでオレは、部活(オリエンテーリング部)の同期の連中に、こう勧められたのである。

 「アキラもそろそろ髪の毛分けたほうがいいんじゃん」

 …髪の毛を分ける…? 今から考えると信じられないことだが、当時のオレは、「髪の毛を分ける」という行為など、思いつきもしなかった。「七三分け」という言葉は知っていたが、世の中の人が「髪の毛を分けている」という実態に気づきもせずに、オレは15年間を駆け抜けていたらしい。ちなみに後日、自分で整髪をし始めた頃、オレはしゃれっ気がでてきたことを親に悟られるのが恥ずかしくて、なかなかムースを買えなかったりしたのも、今ではいい思い出である。

 「いや、オレそんなんやったことないからわかんないし」

というと、オシャレ好きな高山(仮名)くんが、

 「じゃあ明日オレがやってやるよ」

というので、翌日に「アキラ髪分け計画」が遂行されたのである。

 高山くんを筆頭に、オレを含めた3〜4人が、放課後の教室に集まった。オレはイスに座り、高山くんは準備を始める。なんか美容院の雰囲気になってきた。高山くんはおそらく自分用であろう、ドライヤーやらブラシやら櫛やらムースやらを、鞄からゴテゴテと取り出した。ひょっとしていっぱしの美容師きどり? と懸念したが、まあせっかくなので、彼の行為に身をゆだねることにした。

 まず高山くんはオレの後ろにまわり、ブラシで念入りに髪をとかしはじめた。そしておもむろにドライヤーをゴオオオオっとあてる。何回かそれを繰り返したのだが、、高山くんの表情がすぐれない。

 「・・・・髪の毛がわれねーなー」

 どうやらオレの髪の毛は直毛で、クセがないために、何度ドライヤーをあててもすぐに元に戻ってしまうらしい。

 「おかしいなー、普通はこれでできるんだけどなー。やっぱり他人の髪は難しいなー」

 美容師・高山はだんだんイライラしてきたようだ。しかもオレの髪の毛は普通ではないらしい。

 「だめだ、髪が柔らかくてわかれねー。ちっくしょう」

 業を煮やした美容師は、おもむろにムースを取り出し、強引に固める作戦にでた。マンダリンのにおいが辺りにたち込め、スーパーハードの威力が、オレの髪の毛をわけていく。

 「・・・こんなもんだろ。しっかしこんなにやりにくい髪の毛ははじめてだ」

と、かなり最後は投げやり気味に、高山くんはその仕事を終えた。できあがった頭は、正直言って甘栗坊やのような、へんな中分けだったが、この瞬間にオレは確実に? 大人の階段を一歩、上ったのであった。    

(2003年12月21日)

【付録】オレ流髪形変遷

センターパート

ツンツン

2ブロック

6:4

ミディアムロング

ウルフ

 

 

 

 

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