のり巻きと演歌

 前にもどこかで書きましたが、オレは本業の仕事のほかに、ナイショで早朝バイトをしていたことがあるんですね。出勤前の時間を使ってちょっと貯金をしたいなと。ホントは禁止なんだけどさ。もう時効だからいいだろ(笑)。

 で、そのバイト先が、知ってる方は知っていると思うんだけど、某だんご屋のチェーン店だったんです。そこでオレはのり巻き(太巻きと細巻き)を巻いていました。経験はまったくなかったんですが、バイトの時間帯が希望とピッタリあっていたんで、「これしかないな・・・ま、たぶんなんとかなるだろ」と思って連絡をとり、採用してもらったわけです。

 仕事の開始時間は早朝の4:30。そこから仕込みをして、開店の7:00までにのり巻きを30〜40本ほど巻くというタイムスケジュールでした。朝食・昼食として購入するサラリーマンがターゲットだったわけです。で、7:00の段階でオレの仕事はおしまいで、家に帰って着替えて本業の会社に行くと。そんな毎日を1年間ほど続けていました。

 当然のことながら初日は緊張しましたね。しょっぱなから本番なんですよ(笑)。店長が何本か見本を作ってくれて、それを見よう見まねで作るわけです。クルクルっと巻いて、包丁をいれてカット。それを店長がじっと見て「・・・うん、合格」とあっさり免許皆伝。ええ〜〜〜?これでいいの〜〜?と思いましたが、実際オレの巻いた太巻きや細巻きは、初日から店頭に並んでいました(苦笑)。でも2、3日続けるとコツもつかめてきてスピードもアップし、いっぱしののり巻き職人になっていましたよ。

 慣れてくると店の鍵を渡されて、仕込までは一人でやるようになりました。店長が来る朝の6時くらいまでは一人で黙々と仕込みをやるわけです。厨房では常にラジオを流していました。まだまだ街は眠っていますから、ラジオでもつけないと寂しいんですね。でも当時の早朝番組は、トラックの運ちゃんを対象とした演歌プログラムのみ。正直厳しいなあと思っていたんですが、選択肢がこれしかなかったんで、とりあえずBGMがわりに流していたんです。

 ところがですね。よくよく聞いていると、これはこれでなかなかおもしろいんですよ(笑)。たしか『歌うヘッドライト』という番組だったと思うのですが、当時の若手女性演歌歌手が、曜日代わりでパーソナリティを務めていました。正直な話、はじめのうちは誰一人知らなかったんですけど、そのうち声と名前が一致し始め、しかも岩本公水はなかなかおもしろいキャラだなとか、山本智子はおっとりした天然系だねとか、実際にテレビで見たことはないのに、妙に若手女性演歌歌手について詳しくなったりもしました。というか、ターゲットが中年層のみという、商売的には厳しいジャンルに飛び込んでいく若者がまだまだいることに、ちょっとびっくりした記憶があります。

 また、当然の如く「演歌ランキング」なるコーナーがあり、最近の演歌の売れ筋事情を知ることもできました。いや、べつに知りたくはなかったんだけど(笑)。でもね〜、これが聞いていると覚えちゃうんですよ、鳥羽一郎とか山川豊とか川中美幸の歌を。そのうちランキングが上がった、下がったと気になりだしてね(笑)。折りしも時は演歌界のプリンス・氷川きよしが「箱根八里の半次郎」でブレイクしだしたときでね。あの「♪やだねったら やだね」というフレーズが頭の中でリフレインされまくったりして。これはクセになるなあなんて思っていたら、案の定世の中でも大ヒット。ちょっと鼻高々でしたけど。オレにはわかっていたよ、なんつってさ(笑)。

 こうしてちょっと演歌をかじると、今まではありえなかったようなコミュニケーションができたりしてね。当時住んでいたアパートの隣にクリーニング屋があったんだけど、そこのおばちゃんが教室に通うほどの演歌好きで。スーツなんかを頼みにいったついでに演歌談義をしたこともあります(笑)。川中美幸の二輪草はヒットしてるねえとか、氷川きよしは期待大だとか。クリーニング屋のおばちゃんも、意外な年齢層からの演歌談義に喜んでいる感じでしたよ(笑)。

 引越しを境にこの早朝バイトはやめてしまい、自然と演歌に触れる機会もなくなってしまったのですが、興味のなかったジャンルについてちょっと詳しくなったという異質なこの体験は、今でものり巻きをみるたびに思い出されますね。ちなみにのり巻きは今でも得意ですよ(笑)。

(2007年6月10日)

 

 

 

 

次の話にすすむ

波瀾万丈のトップにもどる

社会人トップにもどる

トップにもどる