ペナン島旅行記(最終回)

〈SCENE15〉ブレックファーストPart4

 ペナンに最後の朝が来た。といっても、これからペナンに朝がこないわけではなくて、単に男がこの日を境に日本に戻らねばならないだけである。そして最後だけに、男はずっと果たせなかった命題にけじめをつけるべく、意気込んで朝食をとりにいった。

 今朝もマレー系の給仕のゴンザレスくん(仮名)がメニューを持ってきた。男の視線とゴンザレスくんの視線が交錯する。もう何回目だろうか。もはやアイコンタクトといってもいいくらいに、お互いのいいたいことはその眼で理解できた。そうなると、人間というものは最低限の言葉で足りるものだ。

男「・・・finished?」(終わっちゃった?)

ゴンザレス「finished.」(終わりました)

これだけでお互いがすべてを理解しあえた。異国にてここまで深いコミュニケーションができたのはなんとも感慨深い。旅行の醍醐味を味わい、さわやかな気分に浸っていた男が一方で

「このホテルにワッフルははじめからない」

と断言していたかどうかは定かではない。

〈SCENE16〉コムタ・で・も〜ど

ペナンのシンボルタワー、コムタです。 ペナン最終日、男はジョージタウンのシンボルであるコムタを目指した。コムタは60階建てのランドマークタワーで、1〜4階がショッピングモール、5階がレストラン街、6〜57階がオフィス、58階が展望台、59階がコーヒーラウンジとなっている。まあサンシャイン60みたいなものであるが、円筒形の外観が個性的でおもしろい。

 ペナンのシンボルといわれるだけにその賑わいもすごいと思ったのだが、不景気なのか、ちょっと微妙なかんじであった。ショッピングモールにお客は少なく、店員はヒマそうにしている。ちゃんと給料払えてるのかなあと心配している男の手には、おもちゃ屋に展示されていた『聖闘士星矢』のフィギュアがあったかどうかは定かではない。

 とりあえず展望台にはのぼらねばと考えた男は、チケットを購入し、エレベーターに乗り込んだ。そこにはエレベーターガールならぬエレベータージジイが階数ボタンの前にイスを置いて座っており、展望台への観光客を58階までいざなってくれるのだ。しかしそのエレベータージジイが愛想良く

「58階、展望台でございまぁす」

ということは決してなく、無言でボタンを押した後、手にした新聞に目を戻すだけである。そこにはなんとも荒削りで原始的なサービスが存在し、過剰サービスに慣れた日本人は衝撃的な光景を目の当たりにすることができる。背中に哀愁を漂わせたエレジ(エレベータージジイの略)は、毎日のように1階から58階までの往復を、何度も何度もこなしているわけだ。それを見た男が

「これがホントのエレジのエレジー(哀歌)!」

と感動したかどうかは定かではない。

 展望台に到着すると、そこで待っていたのはなんとも殺風景な光景だった。とにかく物が少ない。というか、ほとんど何もない。これから内装工事を始めるんですか?と、勘違いしてしまっても仕方ないだろう。エレベーターのドアが開いた瞬間に男が

「ほう、なかなか広々として、いいスペースだね。この辺にカウンターをおいて、ここをパーテーションでしきって接客ルームに・・・」

なーんて不動産屋に連れられて、貸しオフィスの下見にきた社長の気分を味わってしまうくらいに殺風景であったのだ。

 ただこのコムタの展望台はペナンで一番の高層にあるだけに、島の様子はよく見える。眼下に見えるオレンジ色の屋根、海に浮かぶ船の大群、ミニチュアのようにこまごまと動く車に自転車。そこには生活観あふれるペナンの暮らしが凝縮されていた。今日でこのペナンともお別れなのだ。

パノラマチックにどうぞ。パノラマチックにどうぞ。パノラマチックにどうぞ。

暑くてグロッキー気味な男   ほんとにまわりに何もないんです。

〈SCENE17〉最後の罠

 コムタから出た男は、最後にジョージタウンの街を歩くことにした。夕方の5時には、ガイドの林さんがホテルに迎えにきてくれることになっていた。ホテルまで徒歩で街並を探訪し、最後にホテル近くのペナン博物館にでも寄れば、時間的にはちょうどいいだろう。

 じりじりと真夏の暑さの太陽が、男の背中を焦がした。汗をかきかき、男は歩く。しかし本当に車優先の街づくりだ。通りを横断するたびに命がけである。カピタン・クリン・モスク、観音寺、セント・ジョージ教会と、イスラム教、仏教、キリスト教といった世界三大宗教の寺院が一つの通りに並んでいることに気づいて苦笑する。

ペナン名物・横断困難な道路   カピタン・クリン・モスクです。

そしてやっとペナン最後の訪問地となろう、ペナン博物館に到着した。意気込んで入館しようとした男の目に飛び込んできた文字は

「本日休館日」

という、なんともつれないものであった。最後の最後でこんな仕打ちにあいながらも男が

「まあこれでオチがついてよかったかも」

と、内心ニヤリとしていたかどうかは定かではない。

セント・ジョージ教会です。   ペナン博物館。本日休館という罠。

〈SCENE18〉さらばペナン島

 男はペナン空港にいた。20:00の飛行機に乗ると、男のバカンスは終了する。長いようで短かった4日間。様々な出来事があったが、十分に静養することができたように思う。

 マレーシアの通貨、リンギット(RM)は日本では両替ができないので、空港の銀行でできるだけ日本円に両替をした。しかしどうしても小銭があまってしまう。男は残されたお金で、小腹を満たすお菓子を買った。日本でもおなじみのグリコのポッキーだ。

 ボリボリと待ち時間の間にポッキーを食べていた男が何気にそのパッケージを見ると、素通りしてしまいそうな事実に気づいた。

ようく観察すると・・・ ⇒ Rocky(ロッキー)じゃん!

「これってポッキーじゃなくて、ロッキーじゃん!

と、ペナン最高のオチに男が大満足?したかどうかは定かではない。

 そして時間通りに飛行機はフライトした。さらばペナン。我が生涯初のリゾートよ。淋病の林さん、ガイドありがどう。ホテルのゴンザレスくん、はじめからワッフルはないっていってほしかったな。スパのマッサージ師さん、あの肛門の痛みは忘れません。リゾートの監視員さん、もう不法侵入はしないから、許してね。

 暗がりに光るペナンの街の灯がだんだんと小さくなっていく様を、飛行機の窓からのぞきながら、男は小さくつぶやいた。

「楽しかったリゾート。忘れないよ。永遠に

そして気がついた。大事なことに。

「あっ!ペナン島でペナント買うの忘れた!!」

お・し・ま・い

(2004年11月6日)

 

 

 

 

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