ペナン島旅行記(その4)

〈SCENE12〉ブレックファーストPart3

 ペナンに新しい朝が来た。昨日の塩もみが効いたのか、尻の痛みはすっかり消えていた。これならば、昨日の絶叫もあながち無駄ではなかったということだ。男はもはや馴れた足取りで朝食をとりにいった。

 今朝もマレー系の給仕のゴンザレスくん(仮名)がメニューを持ってきた。お互いの視線が交差する。彼も男が何をいいたいのか、もはや察しがついているようだ。しかし男は妥協をしなかった。今日こそはとワッフルを注文する。ゴンザレスくんは苦笑いをしながらこう答えた。

「Sorry, it’s finished.」(すいません、終わってしまいました)

その苦笑いぶりも板についてきている。見慣れてきたこの光景に男が

「・・・これが噂のデジャヴ現象!!」

と思ったかどうかは定かではない。

〈SCENE13〉ビーチボーイズ

 朝食をとったあと、男はタクシーを手配した。今日は島の北岸、バツー・フェリンギのビーチに繰り出そうというわけだ。

 バツー・フェリンギ。『ラサ・サヤン・リゾート』『ゴールデン・サンズ・リゾート』といった、シャングリラ系列のリゾートを筆頭に、高級リゾートホテルが立ち並ぶ、マレーシア最高のビーチリゾートの一つである。ジョージタウンからは車で20〜30分といったところであろうか。

 男は『ラサ・サヤン・リゾート』の前でタクシーから降りた。タクシーに乗っている途中、道を横断しようとした野良犬が中央分離帯で立ち往生してしまい、泣きそうになっているのを見てしまったが、男にはどうすることもできなかった。そのくらいここペナン島の交通事情は車優先である。無事に渡り切ってくれればいいのだがと願うのみである。

緑と青のコントラストがきれいな『ラサ・サヤン・リゾート』のガーデンプール。 男はホテルのロビーをさっさと横切り、リゾートのプールガーデンに突入した。バツー・フェリンギのホテルはこのガーデンに力を入れており、ここ『ラサ・サヤン・リゾート』も例外ではない。熱帯雨林の植物が生い茂り、木々の緑とプールの青のコントラストが非常にいい雰囲気を醸し出している。広大な芝生の上にはたくさんのデッキチェアが並び、リゾートを楽しむ人々がのんびりと日光浴をしている。しかし昨日の『ノーザム』のプールもそうだが、まったく入場のチェックをしていない。これでは誰でも入りたい放題である。ひょっとしてリゾートのプールというものはオープンなのか?とも思ったのだが、それについては後述する。

きれいな海岸を歩く男。 男はとりあえずプールには目をくれず、プールに隣接していたビーチまで出た。おおう!これが夢にまで見た南国ビーチ!男は興奮した。まず砂の質が江ノ島とは違う。きれいな薄クリーム色で、粒子が粗い。手足についてもすぐにパラパラと落ちる。そして海の色が伊豆とは違う。透明なエメラルドグリーンとまではいかないが、今まで男が見てきた海の中では一番キレイだ。そして真っ青な空にはパラセイリングのパラシュートが浮かび、バナナボートが海上を疾走する。これだ、これが南国リゾートだよ!このとき男の脳裏に、日本出国直前までやっていたドラマ『ビーチボーイズ』の再放送が浮かんでいたかどうかは定かではない。

マリンスポーツの象徴、パラセイリング。     江ノ島とは違う!江ノ島も好きだけどさ。

 男は荷物を下ろし、おもむろにTシャツを脱いだ。南国ビーチが男を呼んでいるのだ。頭の中では反町の下手くそラウドネスな歌声がこだましている。男がもうこのさい反町がBGMでもいいや、と思ったかどうかは定かではないし、すぐ海に入れるように、用意周到にも水着姿のままでタクシーに乗っていたことなどどうでもいいのだ。このとき確かに男はビーチボーイズだった。誰がなんといおうがビーチボーイズであったのだ。

     

BGMを聴きながらどうぞ!)

 だが男は気づいた。ビーチで泳いでいるのは、男ただ一人だということに。理由はよくわからないが、ビーチが隣接しているというのになぜかみんなプールサイドから離れないのだ。一通り反町気分に浸った男は淋しくなったのか、荷物をまとめていそいそとプールサイドに戻った。男の頭の片隅に「ただでリゾートのプールに入っていいのか?」という考えがよぎったが、こんだけたくさんの人がいればバレることなんてありえないと、持ち前のいい加減さを発揮した男は身近なデッキチェアに腰をおろした。

〈SCENE14〉ピンチボーイズ

 男は熱帯雨林テイスト溢れるプールでくつろいでいた。時には泳ぎ、時には読書をする。優雅だ。時間がゆっくりと流れていく。

「フルーツをどうぞ」

なんてパイナップルまで配られ、まったくもってサービス満点である。ご機嫌な気分になった男はウトウトとし始め、惰眠をむさぼった。

水深2.2メートルのプールでプカプカ浮かぶ男。     たくさんの人がくつろいでました。

「Sorry.」(すみません)

どのくらい眠ったであろうか、男はこのかけ声で目を覚ました。下から見上げると、なにやら敷地内の監視員らしき男達が複数ほど、逆光に顔を暗くさせながら立っている。男は一瞬で何が起きたのかを理解した。

「Please tell me your roomnumber?」(部屋番号を教えてください)

ヤバい!このとき男の頭の中では非常事態警報がなり響いていた。ヤツらは疑っているのだ。男が外部からの不法侵入者であるということを。つまり、バレた。どうやらホテル専用のバスタオルをイスにかけているかどうかで侵入者がわかるらしい。男がどうしようかと考えをめぐらせていると、続けざまに質問が飛んでくる。

「Stay here?」(ここに宿泊していますか?)

「Japanese?Speak English?」(日本人?英語しゃべれる?)

めんどうなことになりそうだが、下手にウソついてよけいに話がこじれるよりはと、男は不法侵入を認めた。このとき確かに男はピンチボーイズだった。誰がなんといおうがピンチボーイズであったのだ。監視員は無線で何やら本部に報告をしていた。

「・・・ああ、不法侵入だ。タダでのうのうとくつろぎやがって。しかもフルーツのサービスまでしっかりと受けたらしい・・・ああ、なんともふてぶてしいヤツさ。とりあえず警察につきだすか」

なんてことを話しているのだろうか。不安な表情で男が沙汰を待っていると、監視員はここはリゾート利用者の専用プールであること(当たり前です)、外部からの利用者はセンターを通して利用料金をキチンと払ってから利用すること(当たり前です)をこんこんと説明し、男から利用料金230RM(≒6900円)を徴収して解放してくれた。

 あまりにも入場チェックが甘いので、ひょっとしてオープン?という男の都合のよい考えは、あっけなく崩れ落ちた。男がそのとき

「この教訓は永遠に忘れない。フォーエバー

と思ったかどうかは定かではない。

もういっちょつづく

(2004年10月17日)

 

 

 

 

次の話にすすむ

波瀾万丈のトップにもどる

社会人トップにもどる

トップにもどる