その男は突然に現れました。

 いつものように金曜夜8時に合わせた10チャンネル(当時)の『ワールドプロレスリング』。観客にもみくちゃにされながら入場してきたその男の風貌は…なんか安っぽい虎? のマスクマン。アニメで『タイガーマスク2世』が先行放送されていたので、それがタイガーマスクを模していることは理解できたのですが、ちょっと笑いを誘うコスチューム。この時点では会場にいる観客、テレビの視聴者ともに「なんだアイツ(笑)」的なイメージを瞬間的に持ったと思うのですが…ひとたびゴングが打ち鳴らされ、彼が動き出すとそのイメージは一瞬にして崩壊し、「なんだアイツ(驚)」に塗り替えられるのです。

 まずリング上でフットワークを使い、サークリングしながら相手との距離をとります。かつてプロレスでフットワークを使うレスラーなど皆無でしたから、ボクシングやキックボクシングさながらのムーブに衝撃を受けるわけです。そこから繰り出されるキック攻撃、ローリングソバット。まあ見たことないアプローチですよ。プロレスのキックといえば相手を踏みつけるストンピング系が主流であり、彼のようなしなやかなロー、ミドル、ハイキックは存在しなかったんですね。そしてプロレスの定番である飛び蹴りのドロップキック。これがただのドロップキックではありません。その跳躍力たるやまるでゴムマリが跳ねたような感覚で、その弾力性に目を奪われます。組み合ってから展開されるレスリングムーブも今までにない速さがあり、目まぐるしく動くその姿に釘付けになりました。軽業師のような空中殺法も目を見張るものばかりで、浮いている時間が長い、という言葉が大げさでなく当てはまるような動きをするのです。

   
打点の高いソバット   異様に高い位置から   しなりの利いたジャーマン

 これらはプロレスリングにおける革命といってもいいレスリングスタイルでした。そんな彼がプロレスという枠を超えた人気者になるのに多くの時間はいらず、まさに『タイガーフィーバー』ともいうべき社会現象を巻き起こしたわけです。「正義の虎」「ドリームヒーロー」的なキャッチフレーズとともに、彼は絶対的ベビーフェイスとして君臨し、連勝街道をばく進していきました。

 ところがですね、私は強烈なアンチタイガーとしてプロレス中継に熱中していました、実は。まだ小学4年生くらいだったと思うのですが、すでに多数派に対して嫌悪感を抱くひねくれ思想が芽生えていまして(笑)、アンチ巨人を筆頭に、強きものが下位のものに倒される構図、というものに快感を求めていたんですね。

   

ダイナマイト・キッド

 

ブラック・タイガー

 

小林邦昭

 そんな感じですから、タイガーに襲いかかる数々の刺客を応援しました。ダイナマイト・キッド、ブラック・タイガー、小林邦昭などです。彼らは常にタイガーを窮地まで追い詰めるのですが、結果的には敗北してしまうので、ストレスは溜まる一方でした(苦笑)。そんな中テレビの前で一番熱狂したのは、小林邦昭がタイガーのマスクに手をかけ、その正体を暴こうとしたときです。いわゆる“マスク剥ぎ”という行為ですね。「いけーっ! ひっぺがしちまえーっ」なんて叫んでいましたから(笑)。タイガー憎し、という気持ちをそのような卑劣な制裁で消化しようとしていたんですね。嫌な子供だなあ(苦笑)。

 しかし当時は本気で「タイガーの正体は誰なんだ?」という興味が湧いていまして、その疑問の回答を刺客の方々が示してくれるのではないかと期待していました。タイガーの正体は“佐山サトル”というレスラーだったのですが、確かに彼の可能性が高い、との噂はありましたが、実際のところけっこう謎だったんです。もちろん私が子供で情報弱者だったからともいえるのですが、現代の覆面レスラーと比べると間違いなくその正体はわかりづらかったです。タイガーもインタビューなどでは外国語を使うとか、ずいぶんと自己演出していましたからね(笑)。当時少年サンデーで連載されていた『プロレススーパースター列伝』では、その正体にギリギリまで迫っていて、かなり興奮したものです。今考えると夢のあるいい時代だったなあ。

 日本中を熱狂の渦に巻き込んだタイガーフィーバーですが、その終焉は意外と早かったです。デビューして2年半くらいでしたかね。大人の事情で所属団体である新日本プロレスから去っていきました。当時は大人の事情なんてわからないから、かなり残念でしたね。アンチのくせに、いなくなると寂しいという(笑)。裏を返せば私は彼の実力を認めており、大好きだったんですね、彼が。実際、大学生になってからタイガーマスクのビデオ『猛虎伝説』が発売されたときは、レンタルしてVHSにダビングまでしましたから(笑)。その後それはDVDに再ダビングされるほどお気に入りのタイトルになっています。いやホント、今見ても彼の動きは色あせていないんですよ。初見の方は衝撃を受けますよ、大げさでなく。

 佐山タイガーが去った後、その虎のマスクは2世、3世、4世と様々なレスラーに引き継がれていきますが、やっぱりオリジナルの初代・佐山タイガーが一番です。その革命的・革新的レスリングは、なかなか打ち破れないだろうなあ。

(2015年7月24日)

 

 

 

 

 

  

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